
子どもはもう十分。これから先の避妊のことを夫婦で話していて、「パイプカット」という選択肢が出てきた。そこで、多くの男性の頭をよぎるのが、こんな心配です。
「男性ホルモンが減って、男らしさがなくなるんじゃないか」「勃たなくなったらどうしよう」「精液が出なくなるのでは」。
名前の響きのせいか、何か大事なものを「切ってしまう」ような印象を持たれがちな手術です。この記事では、パイプカット(精管結紮)の仕組みと、男性ホルモンや性機能への影響、決める前に知っておきたい注意点を整理します。
先に結論
- パイプカットは精子の通り道を断つ手術で、男性ホルモンをつくる精巣はそのまま。男性ホルモンが下がることはないと考えられている
- 精液の見た目や量、勃起、性欲、オーガズムも、基本的には大きく変わらないとされる
- ただし、手術直後は避妊にならない、性感染症は防げない、元に戻すのは簡単ではない、といった注意点がある。夫婦でよく話し合って決めたい
パイプカットとは、どんな手術?
精子は、陰のうの中にある精巣でつくられます。そこから「精管」という細い管を通って体の奥へ運ばれ、射精のときに精液と一緒に外へ出ます。
パイプカットは、この精管を左右とも切ったり結んだりして、精子の通り道をふさぐ手術です。医学的には「精管結紮(せいかんけっさつ)」と呼ばれます。陰のうの皮膚を小さく切るなどして行い、多くは局所麻酔で、日帰りで受けられます。
大事なのは、ふさぐのは「精子の通り道」だけで、精巣そのものには手をつけないという点です。
男性ホルモンは下がらない。その理由
男性ホルモン(テストステロン)も、精子と同じく精巣でつくられます。ただし、その出口がまったく違います。
- 精子:精巣から精管を通って運ばれる
- 男性ホルモン:精巣から直接、血液の中に出ていき、全身をめぐる
男性ホルモンは、もともと精管を通っていません。ですから、精管をふさいでも、男性ホルモンの流れには影響しないのです。精巣は手術後もこれまでどおり働き、男性ホルモンをつくり続けます。
「パイプカットをしたら男らしさがなくなる」というイメージは、精巣を取る手術と混同されていることが多いようです。精巣を取るわけではない、という一点を覚えておけば、心配の多くは消えるはずです。
精液・勃起・性欲はどうなる?
精液の見た目や量
精液の大部分は、精嚢や前立腺でつくられる液体で、精子が占める割合はわずかです。パイプカットのあとも精液はこれまでどおり出て、見た目や量で違いに気づくことは、ほとんどないとされています。
出口を失った精子はどうなるのかというと、精巣では引き続きつくられ、体の中で自然に吸収されていきます。
勃起・性欲・オーガズム
勃起は血管と神経の働き、性欲は男性ホルモンや気持ちの働きによるものです。パイプカットはどちらにも直接かかわらないため、勃起、性欲、オーガズム、性生活の満足度は、基本的に大きく変わらないと考えられています。
むしろ、「妊娠させたらどうしよう」という心配がなくなって、夫婦ともに気持ちが楽になった、という声もあります。性機能は体だけでなく気持ちにも左右されるので、不安が一つ減ることの意味は小さくありません。
反対に、「手術をしたから、もう駄目かもしれない」という思い込みが、勃起に影響してしまうこともあります。体の仕組みとしては変わらないことを、手術の前に理解しておくことが大切です。
手術の前後の流れ(一般的な例)
具体的な手順は医療機関によって違いますが、おおまかな流れを知っておくと、不安は少し小さくなります。
- 事前の相談:手術の仕組み、元に戻すのが難しいこと、起こりうるトラブルなどの説明を受けます。持病や、血液をサラサラにする薬などを飲んでいる場合は、このときに必ず伝えます
- 手術当日:局所麻酔で行われることが多く、手術そのものの時間は長くありません
- 手術のあと:数日は激しい運動や重い物を持つことを控え、陰のうを支える下着をつける、腫れが気になるときは冷やすなど、医療機関の指示に従って過ごします。性生活を再開してよい時期も確認しておきましょう
- 精液の検査:一定の期間をあけてから、精液に精子がいないことを確かめます。ここで確認できて、はじめて避妊の手術として完了です
仕事を休む日数や、運転してよいかどうかなども、事前に聞いておくと安心です。
決める前に知っておきたい注意点
手術直後は、まだ避妊にならない
手術をしても、精管のふさいだ場所より先には、まだ精子が残っています。医療機関の指示に従って精液の検査を受け、精子がいないことを確認するまでは、ほかの方法で避妊を続ける必要があります。
性感染症は防げない
パイプカットは妊娠を防ぐための手術で、性感染症を防ぐ効果はありません。
手術後のトラブル
手術のあとに、出血や腫れ、傷の感染が起きることがあります。また、まれに陰のうの痛みが長く続く人もいます。強い腫れや痛み、発熱があるときは、手術を受けた医療機関に連絡してください。
元に戻すのは簡単ではない
ふさいだ精管をつなぎ直す手術はありますが、受けられる医療機関は限られ、必ず妊娠できる状態に戻るとは限りません。「また子どもがほしくなるかもしれない」という可能性が少しでもあるなら、慎重に考えたほうがよい手術です。
夫婦で決めること
パイプカットは、夫婦の今後にかかわる選択です。勢いで決めず、「もし将来、状況が変わったら」ということまで含めて、時間をかけて話し合っておきたいところです。手術を受けるのは男性ですが、どちらかが説得されて決めるのではなく、二人とも納得していることが大切です。医療機関によっては、配偶者の同意を求められることもあります。また、避妊のための手術は、一般に健康保険がきかない自費の診療になります。費用や手順は、受ける医療機関で確認してください。
避妊の方法には、女性側が選べるものもあります。パートナーの体に合った方法については、婦人科・産婦人科で相談できます。どちらか一方だけが負担を背負わないよう、いくつかの選択肢を並べて比べてみるとよいでしょう。
前立腺がんとの関係は?
以前、パイプカットと前立腺がんの関係を指摘する報告が出たことがありますが、現在は、はっきりした関係は示されていないとする見方が一般的です。いずれにしても、50歳を過ぎたら、パイプカットの有無にかかわらず、PSA検査を受けておく意味があります。
男性ホルモンにまつわる、ほかの俗説
パイプカットのほかにも、「これをすると男性ホルモンが減る」という話はいろいろあります。代表的なものを整理しておきます。
- 自慰をすると男性ホルモンが減る:性的な興奮で一時的に変動することはあっても、自慰が男性ホルモンを長く下げ続けるという根拠はありません
- 大豆製品を食べると減る:豆腐や納豆など、ふだんの食事でとる程度の量で、男性ホルモンが大きく下がるとは考えにくいとされています
- お酒やたばこ:飲みすぎは男性ホルモンの低下や性欲の減退につながることがあります。たばこは血管を傷め、勃起の大敵です
男性ホルモンは、年齢とともに少しずつ減るのが普通です。そのうえで、睡眠不足、肥満、運動不足、強いストレス、持病なども影響します。詳しくはテストステロンの記事で紹介しています。
受診の目安と、何科に行くか
パイプカットについての相談先は泌尿器科です。手術を受けるかどうか迷っている段階でも、仕組みや注意点を聞きに行ってかまいません。
また、パイプカットとは関係なく、次のような変化が続く場合は、男性ホルモンの低下などが関係していることがあります。泌尿器科や、男性更年期外来のある医療機関に相談してみてください。
- 性欲が落ちた、朝立ちが減った
- 疲れやすい、やる気が出ない、気分が沈みやすい
- 筋力が落ちた、おなかまわりに脂肪がついてきた
陰のうにしこりや腫れがある、片側だけ重く感じるといった場合は、手術の有無にかかわらず、早めに泌尿器科を受診してください。
勃起の悩みでED治療薬を考える場合は、狭心症などで硝酸薬(ニトログリセリンなど)を使っている人は、血圧が急に下がり命にかかわるおそれがあるため使えません。持病や服用中の薬がある人は、必ず医師に相談してください。
体の変化が気になったときに
パイプカットで男性ホルモンが下がることはないと考えられていますが、性欲や勃起の変化は、年齢や血管、持病、服用中の薬が関係していることがあります。
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まとめ
パイプカット(精管結紮)は精子の通り道をふさぐ手術で、男性ホルモンをつくる精巣はそのまま残ります。男性ホルモンは精管を通らず血液に出ていくため、手術で下がることはないと考えられ、精液の見た目、勃起、性欲も基本的に大きく変わらないとされています。一方で、手術直後は避妊にならない、性感染症は防げない、元に戻すのは簡単ではないといった注意点もあります。泌尿器科で説明を受け、夫婦でよく話し合って決めてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断、治療効果の保証、特定製品の推奨を行うものではありません。持病や服用中の薬がある方、体の変化が続く方は、医師または薬剤師へ相談してください。