がん治療と性生活|前立腺がん手術から10年の経験と、治療前後に知っておきたいこと

がん治療と性生活(イメージ写真)

がんと診断されたとき、まず頭に浮かぶのは「治るのか」「仕事はどうなるのか」ということでしょう。性生活のことは、考えるのも後ろめたく、医師に聞くのはなおさら気が引けます。

でも治療が一段落し、日常が戻ってくると、多くの人がこの問題に向き合うことになります。がんの治療は、性機能や子どもを持つ力に影響することがあるからです。そして、それは命が助かったことと比べて「ぜいたくな悩み」などではなく、その後の長い人生の質にかかわる大事な問題です。

私は2016年に前立腺がんの手術を受け、術後のEDと尿失禁を経験しました。この記事では、その10年の経験を交えながら、がん治療が性生活に与える影響、治療の前に確認しておきたいこと、治療後に性生活を考えるときのポイントをまとめます。

先に結論

  • 手術、放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤は、それぞれ違う形で性機能や子どもを持つ力に影響することがある
  • 子どもを望む可能性があるなら、治療を始める前に精子の凍結保存について主治医に相談したい
  • 性の悩みは、主治医、泌尿器科、がん相談支援センターで相談できる。形を変えて、無理なく続ける道はある

がん治療は、なぜ性生活に影響するのか

勃起や性欲は、血管、神経、ホルモン、そして心の状態がそろって初めて働く仕組みです。がんの治療は、そのどこかに影響することがあります。

手術

前立腺、膀胱、直腸など、骨盤の中の手術では、勃起を指令する神経がすぐそばを通っているため、手術の範囲によっては神経が傷ついたり、切除されたりして、EDが起きることがあります。前立腺を全部取る手術では、射精のときに精液が出なくなります。尿失禁が起きることもあります。

また、人工肛門(ストーマ)をつくった場合や、手術の傷あとが気になる場合など、見た目や体の感覚の変化が、性への気持ちに影響することもあります。

放射線治療

骨盤の近くに放射線を当てる治療では、血管や神経が少しずつ影響を受け、時間がたってから勃起の力が落ちてくることがあります。照射の範囲によっては、精巣にも影響が出ることがあります。

ホルモン療法

前立腺がんでは、男性ホルモンの働きを抑える治療が行われることがあります。前立腺がんが男性ホルモンの影響を受けて大きくなるためです。その結果、性欲の低下や勃起の低下、ほてり、疲れやすさなどが出ることがあります。

抗がん剤

抗がん剤は、がん細胞だけでなく、髪の毛をつくる細胞や精子をつくる細胞など、さかんに分裂する正常な細胞にも影響します。精子の数や動きが一時的、あるいは長く落ちることがあります。治療が終わると回復していく人も多い一方、回復の程度には個人差があります。だるさや吐き気で、そもそもそういう気持ちになれないことも当然あります。

心の影響

見落とされがちですが、心の影響はとても大きいものです。再発への不安、体の変化への戸惑い、「もう男として終わった」という気持ち。体の仕組みに問題がなくても、こうした気持ちが性から遠ざけることがあります。

私の場合:前立腺がんの手術と、その後

ここからは、私自身の経験です。あくまで一人の例として読んでください。

私は健康診断でPSA(前立腺の状態を見る血液検査)の「要注意」を指摘されながら、3年間放置しました。数値は4.2、4.8、6.5、8.9と上がり続け、2016年にようやく精密検査を受けた結果、前立腺がん(T2c、グリソンスコア3+4=7、中リスク)と診断されました。

手術の前、執刀医からは、勃起にかかわる神経を両側とも切除するか、がんのない側の神経を残すかという選択肢が示されました。両側を残す方法は、私の状態ではすすめられないとのことでした。命の安全を最優先するか、術後の生活の質も含めて考えるか。家族と話し合い、診断内容と執刀医の説明を踏まえて、私は片側の神経を残す手術を希望しました。これは私の診断と価値観にもとづく選択で、同じ選択がすべての人に合うわけではありません。

2016年7月、ロボット支援手術を受け、約3週間入院しました。手術の痛みは思っていたほどではなく、いちばんつらかったのは、しばらく入れたままの尿道カテーテルでした。

退院後に待っていたのは、覚悟していた以上に厳しい現実です。咳やくしゃみ、立ち上がるだけで尿がもれ、おむつが手放せない。少し歩くだけで疲れる。そして、勃起反応はまったくありませんでした。性的な場面だけでなく、朝の生理現象すらない。夜になると「自分はもう男じゃないのか」という感覚が押し寄せてきました。

担当医からは、早い段階で「ED治療薬を試してみてもいい時期です」と言われていました。でも、薬で勃起することが、なんだか敗北のように感じて、なかなか踏ん切りがつきませんでした。結局、使い始めたのは術後半年ほどたってからです。初めて使った夜、「これなら、続けられる」と思ったことを今も覚えています。

今は、ED治療薬を老眼鏡と同じ「道具」だと考えています。老眼になれば老眼鏡をかける。それで自分が自分でなくなるわけではありません。

術後は、最初の3年間は半年ごと、その後は年に1回、PSAの検査で経過を見てもらいました。そして2023年頃、担当医から経過観察の卒業を告げられました。詳しい経過は前立腺癌術後ED 10年の全記録に書いています。

治療の前に、確認しておきたいこと

治療が始まってからでは選べないこともあります。可能であれば、治療前に次のことを主治医に聞いておいてください。

  • この治療で、勃起、射精、性欲にどんな影響が出る可能性があるか
  • 影響はどのくらい続くのか、回復の見込みはあるか
  • 神経を残す方法など、性機能に配慮した選択肢はあるか。その場合、がんの治療にどんな影響があるか
  • 子どもを望む場合、精子の凍結保存はできるか
  • 治療中、治療後に性行為を控える期間や、避妊が必要な期間はあるか

「性のことを聞くのは恥ずかしい」と思うかもしれません。でも、がんの治療を受ける人にとって、とても自然な質問です。言い出しにくければ、メモに書いて渡すのもひとつの方法です。

子どもを望むなら、精子の凍結保存を

抗がん剤や放射線治療、手術によって、精子をつくる力や射精の機能が失われることがあります。将来子どもを持つ可能性があるなら、治療を始める前に精子を凍結保存しておく方法があります。治療を急ぐ必要がある場合もあるので、「子どもを望むかもしれない」と思ったら、できるだけ早く主治医に伝えてください。

また、治療後しばらくは避妊がすすめられることがあります。期間は治療内容によって違うので、主治医の指示に従ってください。

治療後、性生活を考えるときのポイント

再開の時期は、主治医に確認する

手術の傷の回復、体力の戻り具合、治療の内容によって、性行為を再開してよい時期は違います。抗がん剤の治療中は、体液に薬の成分が出ることや、感染を起こしやすくなることから、コンドームの使用などをすすめられる場合もあります。自己判断せず、「いつ頃から、どんなことに気をつければいいか」を主治医に確認してください。

術後のEDには、いくつかの選択肢がある

術後のEDの治療には、ED治療薬のほか、陰圧を使って勃起を助ける器具、陰茎への注射、手術など、いくつかの方法があります。神経がどの程度残っているかによって、合う方法は変わります。泌尿器科で、自分の状態に合った方法を相談してください。

ED治療薬を使う場合は、安全の確認が欠かせません。とくに、狭心症などで硝酸薬(ニトログリセリンなど)を使っている人は、一緒に使うと血圧が急に下がり、命にかかわるおそれがあるため使えません。心臓の病気、重い肝臓・腎臓の病気、最近の脳卒中や心筋梗塞がある人も、必ず医師に相談が必要です。がんの治療中は、ほかの薬との飲み合わせもあります。詳しくはED治療薬を使う前に確認したいことをご覧ください。

射精がなくても、快感はある

前立腺を全部取ると、射精のときに精液は出なくなります。ただ、オーガズム(絶頂の感覚)そのものがなくなるわけではありません。感じ方が変わることはありますが、「出ない=終わり」ではないことは、知っておいてよいと思います。

尿もれへの備え

尿失禁があると、性行為の最中のもれが心配で、気持ちが向かないこともあります。事前に排尿しておく、タオルを敷いておくなど、ちょっとした備えで気持ちが楽になることがあります。尿失禁そのものについては、骨盤底筋の運動がすすめられることもあります。鍛え方はプランクと骨盤底筋の記事で紹介しています。

パートナーとの関係

がんの治療は、本人だけでなく、パートナーにとっても大きな出来事です。治療の説明はできれば二人で聞き、術後の変化についても、少しずつ言葉にして共有していくことが大切だと感じています。

私たち夫婦は、結婚して30年を超えました。正直に書くと、若い頃のような、薬なしで突発的に求め合う夜は戻ってきませんでした。頻度も若い頃とは比べものになりません。それでも、得たものもあります。夫婦で性について少し率直に話せるようになったこと。一回一回を大切にするようになったこと。手をつなぐ、隣で映画を見る、といった性以外のふれあいの価値に気づいたこと。お互いの老いを受け入れられるようになったこと。

術後の無力感を隠すと、距離が生まれます。情けないなら情けないと、率直に話すこと。私の経験では、それがいちばんの近道でした。夫婦関係のことは前立腺癌が夫婦関係に与えた10年の影響に詳しく書いています。

パートナーががんの治療を受けた場合も、性生活に影響が出ることがあります。たとえば女性では、治療によって腟の乾燥や痛みが出ることがあります。その場合は、婦人科や担当医に相談するよう、やさしく背中を押してあげてください。どちらの場合も、相手を責めたり、無理に求めたりしないことがいちばん大切です。

相談できる場所

  • がんの主治医:治療の影響、再開の時期、精子の凍結保存
  • 泌尿器科:ED、射精の変化、尿失禁、男性不妊
  • がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院などに設置されていて、その病院にかかっていなくても相談できる。性の悩みや心の負担についても相談先を一緒に考えてくれる
  • 婦人科:パートナーの体の変化について

気分の落ち込みが続く、眠れない、何をしても楽しくないといった状態が続く場合は、心の不調も考えて、主治医に伝えてください。

また、次の場合はすぐに医療機関を受診してください。

  • 痛みをともなう勃起が4時間以上続く
  • 性行為の最中やあとに、胸の痛み、息苦しさ、片側の手足のしびれなどが出た
  • 手術の傷が赤く腫れる、熱が出るなど、感染が疑われる

体の変化が気になったときに

がんの治療後の性機能の変化には、治療の影響だけでなく、血管や持病、服用中の薬が関係していることもあります。Bodyagainでは、ED治療や治療薬を検討する前に確認したい15項目を、無料のPDFガイドにまとめています。持病や服用中の薬、医療機関に相談する目安を、ご自身で整理するための一般的な情報です。

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まとめ

がんの治療は、手術、放射線、ホルモン療法、抗がん剤それぞれの形で、性機能や子どもを持つ力に影響することがあります。治療の前に、性機能への影響や精子の凍結保存について主治医に聞いておくこと。治療後は、再開の時期を確認し、ED治療薬などを使う場合は安全を確かめること。そして、パートナーと少しずつ話すこと。私自身、前立腺がんの手術のあと、若い頃と同じ形は戻りませんでしたが、形を変えて続ける道はありました。性の悩みは、命の次に考える「ぜいたくな悩み」ではありません。一人で抱え込まず、相談してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断、治療効果の保証、特定製品の推奨を行うものではありません。持病や服用中の薬がある方、体の変化が続く方は、医師または薬剤師へ相談してください。