バイアグラの俗説と最新研究|よくある誤解と、寿命・認知症・妊活研究のいま

バイアグラの俗説と最新研究(イメージ写真)

「小さな青い錠剤」として知られるバイアグラ(一般名シルデナフィル)。日本で承認されてから四半世紀以上がたち、名前を知らない人はほとんどいないでしょう。ところが、これほど有名な薬なのに、いまだに誤解や都市伝説がたくさん残っています。

「飲めば勝手に元気になる」「心臓に悪い」「性欲が強くなる」。さらに最近は、「寿命が延びる」「認知症の予防になる」「女性の妊活に使える」といった、景気のいいニュースも目にします。

この記事では、バイアグラにまつわるよくある俗説を一つずつ確かめ、話題になっている研究が実際にはどこまで分かっているのかを、落ち着いて整理します。

先に結論

  • バイアグラは性欲を起こす薬ではなく、性的な刺激があったときに勃起を助ける薬。飲むだけで勝手に勃起するわけではない
  • 寿命、認知症、女性の妊活についての研究はあるが、いずれも研究段階。そうした目的で使う薬ではない
  • 硝酸薬を使っている人は一緒に使えない。持病や服用中の薬がある人は、必ず医師に相談を

そもそも、どんな薬?

シルデナフィルは、もともと狭心症の薬として研究されていました。その試験の中で、勃起を助ける作用があることが分かり、ED(勃起不全)の治療薬として開発された、という経緯はよく知られています。アメリカで1998年に承認され、日本でも1999年に承認されました。

勃起は、性的な刺激を受けると陰茎の血管が広がり、血液が流れ込むことで起きます。このとき、血管を広げる物質を分解してしまう「PDE5」という酵素があります。シルデナフィルはこの酵素の働きを抑えることで、勃起を起こしやすく、保ちやすくします。この仕組みから、同じ成分は肺の血管の病気(肺動脈性肺高血圧症)の治療にも使われています。

よくある俗説を確かめる

俗説1:「飲めば勝手に元気になる」

なりません。シルデナフィルは、性的な刺激や興奮があったときに勃起を助ける薬です。飲んだだけで、満員電車の中で突然困ったことになる、という心配はいりません。逆に言えば、緊張や疲れで気持ちが向かないときは、思ったように効かないこともあります。

俗説2:「何時間も勃ちっぱなしになる」

薬の説明書には、「4時間以上勃起が続いたら、すぐに医療機関へ」という注意が書かれています。これは「持続勃起症」という副作用への警告で、起きることはまれです。ただし、起きた場合は放っておくと陰茎の組織が傷むおそれがあるため、恥ずかしがらずにすぐ受診してください。陰茎に注射する治療と一緒に使うなど、条件によってはリスクが高まることもあります。

俗説3:「性欲が強くなる」

性欲を高める薬ではありません。あくまで勃起の仕組みを助ける薬です。「その気にならない」という悩みには、別の原因(男性ホルモンの低下、疲れ、ストレス、夫婦関係など)が隠れていることがあります。

俗説4:「心臓に悪い」

半分正しく、半分は誤解です。心臓の病気の薬として研究されていたことからも分かるように、薬そのものが心臓を傷めるわけではありません。ただし、狭心症などで使う硝酸薬(ニトログリセリンなど)と一緒に使うと、血圧が急に下がり、命にかかわるおそれがあります。これは絶対に併用してはいけない組み合わせです。また、性行為そのものが心臓に負担をかけるため、心臓の病気がある人は、使えるかどうかを医師に確認する必要があります。

俗説5:「世界が青く見える」

これは、ある程度本当です。副作用として、ものが青っぽく見える、光がまぶしく感じるなどの一時的な見え方の変化が起きることがあります。多くは時間とともに消えます。ただし、急に片方の目が見えにくくなった、視野が欠けた、急に耳が聞こえにくくなった、という場合は、使用をやめてすぐに医療機関を受診してください。

俗説6:「年寄りの薬だから、若い人には関係ない」

EDは年齢とともに増えますが、若い人にも起こります。年齢にかかわらず、勃起の悩みが続くなら医師に相談してかまいません。むしろ若い人のEDは、ストレスや生活習慣、ときには血管の病気のサインのこともあります。

俗説7:「お酒と一緒なら、もっと効く」

逆です。お酒の飲みすぎは、それ自体が勃起を妨げます。さらに、薬もお酒も血圧を下げる方向に働くため、立ちくらみやめまいが起きやすくなります。「景気づけの一杯」くらいにとどめておきましょう。

俗説8:「ネットで買えば同じもの」

インターネットで出回るED治療薬の中には、成分が入っていない、量が違う、別の成分が混ざっているといった偽造品があることが問題になっています。持病や服用中の薬を医師に確認しないまま使うこと自体にも危険があります。個人輸入を考える前に確認したいことは、個人輸入の安全チェックの記事にまとめています。

バイアグラが登場する前のED治療

EDは、はるか昔から男性を悩ませてきました。でも、飲み薬が登場する前の治療は、気軽に受けられるものではありませんでした。男性ホルモンの補充、陰茎への注射、陰圧で血液を引き込む器具、手術など、体の負担や心理的なハードルが大きいものが中心です。漢方薬も使われてきましたが、体質に合わせて選ぶ必要があります。

昭和の雑誌の広告をにぎわせた赤まむしやすっぽん、オットセイなどの「強壮剤」は、栄養が足りなかった時代には、体に栄養を補う意味があったのかもしれません。ただ、勃起を助ける効果がはっきり確かめられたものとは言えません。そう考えると、飲み薬の登場がEDの治療を大きく変えた、と言われるのもうなずけます。

話題の研究、どこまで分かっている?

ここからは、ニュースで話題になった研究の話です。どれも興味深いものですが、「だから飲めば長生きできる」という話ではないことを、先にお断りしておきます。

寿命との関係

海外では、大規模な健康データを分析したところ、ED治療薬を処方されていた男性は、そうでない人に比べて死亡のリスクが低い傾向があった、という報告があります。

ただし、これは「薬を飲んだから長生きした」ことを示すものではありません。ED治療薬を処方される人は、医療機関にかかって自分の健康に気を配っている人、性生活を送れるだけの体力がある人、という可能性があります。こうした背景の違いを完全に取り除くのは難しく、因果関係ははっきりしていません。

認知症との関係

脳の細い血管が傷んで起きるタイプの認知症(血管性認知症)について、イギリスで少人数の臨床試験が行われ、シルデナフィルによって脳の血管の反応や血流に関する指標が改善した、という結果が報告されています。また、アルツハイマー病との関係を調べた研究もありますが、関係があるとする報告と、はっきりしないとする報告があります。

いずれも、認知症の予防や治療として使えることを示したものではありません。今後のより大きな研究を待つ段階です。

女性の妊活との関係

海外では、子宮の内側の膜(子宮内膜)が薄く、妊娠しにくい女性を対象に、シルデナフィルで子宮の血流を良くできないかを調べる研究が行われています。内膜が厚くなった、妊娠率が上がったという報告がある一方、研究の規模や方法はさまざまで、標準的な治療として確立したものではありません。

ここははっきり書いておきます。男性用のED治療薬を、女性が妊活などの目的で自己判断で使うのは、絶対にやめてください。夫の薬を妻が試す、ということもしないでください。不妊治療のことは、婦人科・産婦人科や不妊治療を行う医療機関で相談してください。

私が薬を「道具」と思えるまで

私は2016年に前立腺がんの手術を受け、術後は勃起反応がまったくない状態になりました。担当医からは早い段階で「ED治療薬を試してみてもいい時期です」と言われていましたが、薬で勃起することが敗北のように感じて、しばらく踏ん切りがつきませんでした。

今は、老眼になれば老眼鏡をかけるのと同じで、ED治療薬も年齢や体の変化を補う「道具」だと考えています。ただし、道具だからこそ、使い方と安全の確認が欠かせません。このことは、10年たった今もいちばん大切にしていることです。私の経過は前立腺癌術後ED 10年の全記録に書いています。

使う前に、必ず確認したいこと

ED治療薬は、誰でも使える薬ではありません。

  • 硝酸薬(ニトログリセリンなど)を使っている人は使えない:一緒に使うと血圧が急に下がり、命にかかわるおそれがある。貼り薬やスプレーも含む
  • 一部の肺高血圧症の薬との併用も禁止されている
  • 心臓の病気、重い肝臓・腎臓の病気、最近の脳卒中や心筋梗塞、低血圧や高血圧がうまくコントロールできていない人:必ず医師に相談
  • 前立腺肥大症や血圧の薬、一部の抗菌薬や抗真菌薬、HIVの薬などを使っている人:飲み合わせに注意が必要なことがある

詳しくはED治療薬を使う前に確認したいことを、シルデナフィルとタダラフィルの違いはこちらの記事をご覧ください。

次のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 痛みをともなう勃起が4時間以上続く
  • 急に目が見えにくくなった、耳が聞こえにくくなった
  • 使用後に、胸の痛み、息苦しさ、強いめまい、片側の手足のしびれなどが出た

相談先は、泌尿器科、ED外来のあるクリニック、または普段かかっている内科です。持病で通院中なら、まず主治医に話してください。

体の変化が気になったときに

ED治療薬について調べ始めたときは、薬そのものより先に、ご自身の持病や服用中の薬を確認しておくことが大切です。Bodyagainでは、ED治療や治療薬を検討する前に確認したい15項目を、無料のPDFガイドにまとめています。持病や服用中の薬、医療機関に相談する目安を、ご自身で整理するための一般的な情報です。

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まとめ

バイアグラ(シルデナフィル)は、性的な刺激があったときに勃起を助ける薬で、飲めば勝手に元気になる薬でも、性欲を強くする薬でもありません。寿命、認知症、女性の妊活についての研究は話題になっていますが、いずれも研究段階で、そうした目的で使う薬ではありません。とくに女性が自己判断で使うのはやめてください。硝酸薬を使っている人は一緒に使えず、持病や服用中の薬がある人は必ず医師に相談を。正しく知ることが、いちばんの安全策です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断、治療効果の保証、特定製品の推奨を行うものではありません。持病や服用中の薬がある方、体の変化が続く方は、医師または薬剤師へ相談してください。