
上司の顔を思い浮かべるだけで胃が重くなる。家に帰っても仕事のことが頭から離れない。休日は寝てばかりで、夜にパートナーといい雰囲気になっても、体がついてこない。
「年のせいかな」「疲れているだけだろう」と思いつつ、一度うまくいかないと、次も気になる。そしてまたうまくいかない。40代・50代の男性にとって、これはかなりこたえる経験です。
実は、ストレスと勃起は、気の持ちようという以上に、体の仕組みとして深くつながっています。この記事では、ストレスがなぜ勃起を邪魔するのか、悪循環をどう断つか、どこに相談すればいいかを順番にまとめます。
先に結論
- 勃起には、体がリラックスしている「休息モード」が欠かせない。強いストレスや不安で体が「戦闘モード」になると、勃起は起きにくくなる
- 一度の失敗が「また失敗するかも」という不安を呼び、それがさらに勃起を妨げる悪循環になりやすい
- ストレスが原因に見えても、血管や持病、薬、気分の落ち込みが隠れていることがある。続くときは一人で抱えずに相談を
勃起は「リラックスしているとき」に起きる
私たちの体には、自分の意思とは関係なく働く自律神経があります。大まかに言うと、緊張や危険に備える「戦闘モード」の交感神経と、体を休めて回復させる「休息モード」の副交感神経です。
勃起は、副交感神経が優位なときに起きやすい反応です。性的な刺激を受けると、陰茎の血管が広がり、海綿体に血液が流れ込む。この「血管を広げる」指令は、体が安心しているときに出やすいのです。
反対に、強いストレスや不安があると、体は交感神経が優位な戦闘モードになります。心臓はどきどきし、筋肉はこわばり、血管は縮みがちになる。はるか昔、猛獣に出会ったときに、子孫を残すことよりまず逃げることを優先した体の名残りと考えると、分かりやすいかもしれません。
現代では猛獣の代わりに、締め切り、人間関係、お金の心配が、毎日のように私たちを戦闘モードにします。その状態のまま夜を迎えれば、体がなかなか反応しないのは、ある意味で当然のことです。
「また失敗したら」が、次の失敗を呼ぶ
ストレスによるEDでやっかいなのは、悪循環に入りやすいことです。
- 疲れやストレスで、一度うまくいかなかった
- 次のとき、「また駄目だったらどうしよう」と気になる
- その不安が緊張を呼び、体が戦闘モードになる
- またうまくいかず、自信がさらに揺らぐ
本来は自然に任せる行為なのに、自分の体の反応を「監視」しながらするようになる。そうなると、ますます体は緊張します。こうした不安が中心にある状態は、「心因性ED」と呼ばれることがあります。
心因性のEDには、朝立ちはあるのに、いざというときだけうまくいかない、というパターンがよく見られます。体の仕組みは働いているのに、緊張がブレーキをかけている状態です。ただし、これだけで「心の問題だけ」と決めつけることはできません。EDの原因の見分け方はEDの主な原因と受診を考える目安でもまとめています。
長く続くストレスは、体の土台も削る
ストレスの影響は、その夜の緊張だけにとどまりません。長く続くと、体の土台にもじわじわ響いてきます。
ストレスホルモンと、おなかまわり
ストレスがかかると、副腎から「コルチゾール」というホルモンが出ます。本来は危機を乗り切るための大事なホルモンですが、ストレスが慢性的に続くと、食欲が乱れたり、甘いものや脂っこいものが欲しくなったり、おなかまわりに脂肪がつきやすくなったりすると言われています。内臓脂肪は、血管にも男性ホルモンにもよくありません。
反対に、ストレスで食欲が落ちて痩せてしまう人もいます。どちらの反応が出やすいかを自分で知っておくだけでも、食べすぎや食べなさすぎに気づきやすくなります。
眠りが浅くなる
ストレスがあると寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりします。男性ホルモンの多くは眠っている間につくられ、朝立ちも眠りの中で起きています。眠りが削られれば、夜の元気も削られます。
お酒とたばこが増える
ストレス解消のつもりのお酒やたばこが、少しずつ増えていないでしょうか。どちらも、量が増えれば血管と勃起の大敵です。
見落としたくない「心の疲れ」のサイン
男性は、ストレスを言葉より行動で表しやすいと言われます。弱音を吐くのは男らしくない、と育ってきた世代ならなおさらです。次のような変化が続いていないか、振り返ってみてください。
- 理由もなく不安になる、気分が落ち込む日が続く
- 寝つけない、夜中に目が覚める、寝ても疲れが取れない
- 以前は楽しめた趣味や食事が、どうでもよくなった
- 食欲が極端に増えた、または減った
- イライラしやすく、家族に当たってしまう
- お酒の量が増えた、ゲームや動画をやめられない
- 息苦しさや胸の圧迫感、頭痛や腹痛が続く
性欲がわかない、勃起しにくいという変化が、こうしたサインと一緒に出ているなら、根っこにあるのは気分の落ち込み(うつ状態)かもしれません。その場合、まず手当てしたいのは心のほうです。
なお、胸の痛みや息苦しさは、ストレスだけでなく心臓の病気のサインのこともあります。強い痛みや、動いたときに出る症状は、すぐに医療機関を受診してください。
孤独も、体にとってはストレス
40代以降の男性は、仕事中心の生活の中で、本音を話せる相手が意外と少なくなりがちです。家族や同僚に囲まれていても、心のつながりを感じられないと、人は孤独を感じます。
孤独や、ぎくしゃくした人間関係は、心の健康だけでなく体の健康にも影響すると考えられていて、海外では公衆衛生の課題として取り上げられるほどです。誰とでも仲良くする必要はありませんが、一人でいいので本音で話せる相手がいるかどうかは、思っている以上に大事なことです。
私の場合:「薬に頼るのは負け」と思っていた
私は2016年に前立腺がんの手術を受け、その後、勃起反応がまったくない時期を経験しました。原因ははっきり手術でしたが、それでもいちばん堪えたのは心のほうでした。「自分はもう男じゃないのか」という感覚が、夜になると押し寄せてきたのです。
担当医からは、術後半年ほどで「ED治療薬を試してみてもいい時期です」と言われていました。それでも、私はなかなか踏み出せませんでした。薬で勃起することが、なんだか敗北のように感じたからです。自然じゃない、男として情けない。そんな思い込みが、自分で自分を縛っていました。
夫婦の間でも、この話題は口にしにくい時期がありました。振り返ると、すぐに答えを出そうとせず、体調と気持ちの変化を少しずつ共有していったことが、その後の土台になったと思います。今は、老眼になれば老眼鏡をかけるのと同じで、必要な道具を使うことは恥ずかしいことではないと考えています。ストレスや不安でうまくいかないときも、「自分が弱いからだ」と一人で抱え込まないでほしいと思います。夫婦の10年については前立腺癌が夫婦関係に与えた10年の影響に書きました。
今日からできる、心と体の整え方
ストレスをゼロにすることはできません。目指したいのは、戦闘モードから休息モードに切り替える「スイッチ」を、自分の手に取り戻すことです。
- ゆっくり吐く呼吸:4秒ほどで吸って、6秒ほどかけて吐く。吐く息を長くすると、体は休息モードに入りやすくなります。寝る前や通勤中に数分でかまいません
- 短い瞑想:静かに座って目を閉じ、意識を呼吸にだけ向ける。雑念が浮かんだら、また呼吸に戻ればいい。寝る前の数分、スマホを置いて試してみてください
- 歩く:早歩き程度の運動は、気分の安定にも、血管にも、眠りにも役立ちます
- 眠りを優先する:寝る時間と起きる時間をなるべくそろえ、夜遅くのお酒やカフェイン、スマホを控える
- 甘いものは「だらだら食べ」をやめる:時間を決め、単独でなく食事と一緒に。食物繊維の多いものを先に食べるのも手です
- 気持ちを書き出す:誰にも見せないメモに、いま感じていることを1行書く。それだけで頭の中が少し整理されます
- 人と話す、笑う:友人との雑談、気の置けない人との食事、面白い番組で声を出して笑う。どれも立派なストレス対策です
- 苦手な相手とは距離をとる:必要最低限の会話にとどめるのは「逃げ」ではなく、自分を守る工夫です。相手の不機嫌は相手の問題、と割り切る練習も
夜のことについては、「うまくいかせなきゃ」という目標をいったん手放すのも一つの方法です。挿入にこだわらず、触れ合うこと自体を楽しむ時間にすると、プレッシャーが和らぐことがあります。パートナーに「最近疲れていて」と一言伝えておくだけでも、気持ちはずいぶん楽になります。
受診の目安と、何科に行くか
次のような場合は、一人で抱え込まず、医療機関に相談してください。
- 勃起の悩みが数週間から数か月続いている
- 朝立ちも減っている、または高血圧・糖尿病などの持病がある
- 気分の落ち込みや眠れない状態が2週間以上続いている
- 仕事や家庭の生活に支障が出ている
勃起の悩みが中心なら、泌尿器科やED外来、かかりつけの内科へ。気分の落ち込み、不安、不眠が中心なら、心療内科や精神科が相談先です。どこに行けばいいか迷ったら、まずはかかりつけ医に話してみてください。
「消えてしまいたい」「死んでしまいたい」という気持ちがあるときは、すぐに医療機関や、自治体などの電話相談窓口に連絡してください。一人で抱えないでください。
抗うつ薬など、心の治療に使う薬の中には、性欲や勃起、射精に影響するものがあります。気になるときは自己判断でやめず、処方した医師に相談しましょう。
ED治療薬を考える場合は、狭心症などで使う硝酸薬(ニトログリセリンなど)を使っている人は、血圧が急に下がり命にかかわるおそれがあるため使えません。心臓の病気などがある人も、必ず医師に相談が必要です。詳しくはED治療薬を使う前に確認したいことにまとめています。
体の変化が気になったときに
ストレスが原因に見えるEDにも、血管や持病、服用中の薬が関係していることがあります。
Bodyagainでは、ED治療や治療薬を検討する前に確認したい15項目を、無料のPDFガイドにまとめています。持病や服用中の薬、医療機関に相談する目安を、ご自身で整理するための一般的な情報です。
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まとめ
勃起は、体がリラックスした休息モードのときに起きやすい反応です。強いストレスや「また失敗したら」という不安は、体を戦闘モードにして勃起を妨げ、悪循環を生みます。呼吸、睡眠、運動、人との会話で休息モードへのスイッチを取り戻しつつ、悩みが続くとき、気分の落ち込みがあるときは、泌尿器科や心療内科、かかりつけ医に相談してください。うまくいかないのは、あなたが弱いからではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断、治療効果の保証、特定製品の推奨を行うものではありません。持病や服用中の薬がある方、体の変化が続く方は、医師または薬剤師へ相談してください。